LUCENTE

Hair Make Face
Headspa & Organic shop

Bridal Story

「短く切って」

私が言うと、あなたは手を止めた。

「どうしたの？」
「ちょっとね…。気分を変えたいの」


ちいさい時から一度も、短くしたことはなかった。
たしか、そんな話をしたことがあった。

「今日はこれくらいにしておこう」
「えっ、なんで？」
「これでもけっこう気分かわるでしょ」

あなたは笑顔でハサミをしまった。

「一度切ったら、なかなかもとに戻らないから、ね」


不思議だった。
終わった瞬間、ちょっとだけ元気になっていた。

そう、あなたはいつも私の迷いを読みとってハサミを入れる。

結婚が決まった時も、すぐにここ（美容室）にきた。

「えっ、ホント？おめでとう!!」
「ドレスはもう決まったの？」

ブライダルの雑誌をひらいて、話がはずむ。

「ドレスが決まったら私、そのドレスに似合うヘアメイクをかんがえるわ」

この時から打ち合わせが始まった。
6ヵ月後の結婚式。
その日にいちばんキレイであるために。

素肌と髪のコンディショニングが始まった。

美しさはメイクで決まる。
そのメイクを、最大限に生かすのは素肌のコンディション。


だから夜更かしは禁物。お酒もほどほどにね。

式の1ヵ月前。
鏡の前に座ると、リハーサルメイクが始まった。

「花嫁さんはね、遠目に映えて、近くで自然なメイクが肝心なの。
たまに聞かない？結婚式のメイクで、
自分じゃなくなっちゃった…なんて話」

「うん。かなしくて泣きたくなるよね」

「それはね。ドレスに負けないくらい、遠くから見ても
キレイに作ろう！って気合いを入れすぎるからなの。
花嫁さんのことを知っていたら、そんな悲劇なんて起きないもの。」

式の3日前。
デコルテのシェービングと最後のエステ。
これで準備はすべて完了。

結婚式。
その当日はやってきた。

メイク。
それからヘアー。
ドレスに袖を通した。
鏡のなかに、わたし（花嫁）がいる。

「半年かけた作品よ。最高にステキ」

最後にティアラをのせた。

「ほら、とってもキレイ。
はやくお父さんとお母さんに、見てもらいたいね」

ありがとう
あなた（美容師）がいてくれて、ほんとうによかった。

涙がにじんで、鏡のなかの私が見えなくなった。